当院に不妊症で通院されている方の半数近くが体外受精も同時にされています。漢方治療は昔ながらのやり方があるので、体外受精をやりたいのならばそれはそれでどうぞ、と言う考えではいけないと思います。私は漢方治療も体外受精のスケジュールに併せて方針を組み治療を行えば、最善の結果が得られると考えます。
治療の目安・期間
私の経験から、今まで体外受精に失敗を繰り返されていた方が、漢方治療を開始して体外受精で妊娠されたのは最短で半年でした。1年を経過するとさらに成功率も上がる感があります。もちろん漢方を服用してから1〜2ヶ月で妊娠された方もおられますが、それは漢方の効果と言うよりも偶然ではないかと思っています。
ですから、体外受精に併せて漢方治療をお考えの方には、最初に次のようにお話し致します。
「漢方治療を開始してから体外受精で妊娠するまで早くて半年。1年を経過すると成功率はさらに上がります。逆に2年を超えると少し厳しいかもしれません。ですから1〜2年の間が勝負です。」
もし時間的に少し余裕があるのならば、半年程度は体外受精をお休みされても良いかと思います。
ただ2年経過して成功しなくとも、着々と状態が前進している方も多いです。40歳を過ぎて今まで採卵すら出来なかった方が、漢方を始めてから採卵出来るようになったり、受精しなかった方が胚盤胞まで成功するようになったり、妊娠には至らなくとも確実に前進されている場合は、まだあきらめることはありません。
初診でお見えになった方には、今後どの様に考えておられるかをお伺いします。将来的に体外受精を考えておられる方は、当面は自然妊娠を目指しておられる方と同じ様な方針で治療して行きます。体外受精を開始する前になんとか自然妊娠に至って欲しいと思いますし、実際に何名かは体外を覚悟されていたのに自然妊娠された方もいらっしゃいます。
体外受精に合わせた漢方治療
一方、現在体外受精を継続しつつ初診でお見えになった場合は、自然妊娠と方針はことなります。採卵日、移植日、判定日の予定をお伺いしてそれに合わせた漢方処方を組み立てて行きます。
一つの例では、採卵日までは主に性腺機能を増強する様な処方を使います。排卵湯などはこの時期に良く使う処方の一つです。
次いで、移植の前日より移植後4日目頃までは子宮の収縮を抑える様な生薬を含んだ処方を使います。子宮の収縮などの、着床の妨げになる因子を取り除くためです。同様の手法で体外受精の成功率が10%上昇したとの論文報告も過去にはありました。
移植後5日目頃よりは、妊娠したと仮定して当帰芍薬散などのいわゆる安胎薬を用いて判定日を待ちます。
もちろん全ての方にこの様な方法で治療するわけではありません。採卵や分割に問題ない方は普段その方が飲んでおられる処方で移植前まで経過を診ることもあります。
うまくいかない段階に合わせた漢方治療
体外受精と言っても、いろいろな段階があります。採卵に問題があるのか、分割しないのか、それとも着床に問題があるのか、などにより漢方治療の方法も変わって来くるのは当然でしょう。
1983年に日本で最初の体外受精が成功しました。これは漢方の誕生した時代には想像もされていなかった手法でしょう。従来の漢方治療の方法に少し変化を与えてあげると、更に良い結果が伴ってくるものと思います。